年末が近づくと「売れ残った在庫はどう扱うのか」という疑問が出てきます。仕入れた分は全部その年の経費になる、と考えていると、確定申告の段階で計算が合わなくなります。この記事では、せどりで棚卸が必要になる理由と、いつ・何を・どうやって数えるのかを、国税庁の公開情報をもとに整理します。
棚卸とは、年末時点で売れ残っている在庫を数えて金額を出す作業です。国税庁のタックスアンサーでは、必要経費に算入できる金額は「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」などとされています。つまり必要経費になる仕入れは、その年に売れた分に対応するものであり、年末に残っている在庫の仕入れ代金はその年の必要経費にはなりません。だから在庫を数える必要があります。せどりの場合は自宅の在庫だけでなく、倉庫に預けている在庫や返品で戻ってきた商品も対象になります。評価方法は届出をしなければ最終仕入原価法が適用されます。個別の金額の扱いで迷う場合は、税務署または税理士に確認してください。
- 棚卸とは何をする作業か
- なぜ売れ残った在庫を数える必要があるのか
- いつ、何を数えるのか(せどり特有の対象)
- 棚卸表に書く項目
- 評価方法は届出をしないと最終仕入原価法になる
- 数えるときにつまずきやすいところ
- 棚卸をラクにするための準備
棚卸とは何をすることか
棚卸は、ある時点で手元に残っている商品(棚卸資産)を数えて、その金額を出す作業です。個人事業の場合、その時点は年末になります。
やること自体は単純で、「何が」「何個」「いくらで仕入れたか」を一覧にするだけです。ただし、せどりは仕入先も保管場所も分かれやすいため、数え忘れが起きやすい作業でもあります。
なぜ売れ残った在庫を数える必要があるのか
理由は、仕入れ代金が経費になるタイミングにあります。
国税庁のNo.2210 必要経費の知識によると、事業所得などの金額を計算するうえで必要経費に算入できる金額は、次のものとされています。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
またNo.1350 事業所得の課税のしくみでも、事業所得の金額は「総収入金額-必要経費」で計算し、必要経費の例として売上原価が挙げられています。
ここで重要なのは「総収入金額に対応する売上原価」という書かれ方です。仕入れた金額がそのまま経費になるのではなく、その年の売上に対応する分が経費になる、という構造になっています。
そのため、年末に売れ残っている在庫の仕入れ代金は、その年の売上に対応していない以上、その年の必要経費には入りません。売れた分と売れ残った分を分けるために、残っている在庫を数えるのが棚卸です。
「仕入れをたくさんすれば税金が減る」という話を見かけることがありますが、売れ残った在庫はその年の経費にならないため、仕入れを増やしただけでは経費は増えません。資金だけが在庫に変わって手元に残らない、という状態になりやすい点に注意してください。
いつ、何を数えるのか
数える時点
個人事業の場合、数えるのは12月31日時点です。年末は帰省や配送の繁忙期と重なりやすいので、12月に入った時点で「いつ数えるか」を決めておくと慌てずに済みます。
数える対象
せどりでつまずきやすいのは、在庫が1か所にないことです。少なくとも次の場所を確認してください。
- 自宅や作業場に保管している商品
- 倉庫に預けている在庫。FBAを使っている場合、手元になくても自分の在庫です
- まだ出品していない商品。仕入れたまま検品待ちになっているもの
- 返品されて戻ってきた商品。再販できる状態のものは在庫として残っています。返品の流れはAmazonせどりの返品対応で扱っています
- 納品の途中にある商品。発送済みで倉庫に受領されていないものをどう扱うかは、判断に迷いやすい部分です
「手元にあるかどうか」ではなく「自分の商品として残っているかどうか」で見ると、数え漏れが減ります。
納品途中の商品や、破損して販売できない商品をどう扱うかは、状況によって扱いが変わります。本記事では扱いを断定しません。判断に迷うものが出てきた場合は、税務署の相談窓口か税理士に確認してください。
棚卸表に何を書くか
形式に決まった様式はありませんが、後から確認できる形にしておく必要があります。最低限、次の項目があれば足ります。
- 商品名(型番やASINなど、特定できる情報)
- 数量
- 単価(仕入れた金額)
- 金額(数量×単価)
- 保管場所(自宅/倉庫など)
せどりは同じ商品を違う日に違う値段で仕入れることがあるため、単価をどう決めるかが問題になります。これを決めるのが次の評価方法です。
評価方法は届出をしないと最終仕入原価法になる
棚卸資産の金額を出す方法は複数あり、どれを使うかは届出で選べます。国税庁のA1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続によると、手続きの内容は次のとおりです。
- 対象者は、事業所得者のうち新たに事業を開始した方、従来の事業のほかに他の種類の事業を開始した方、事業の種類を変更した方
- 提出時期は、対象者となった日の属する年分の確定申告期限まで
- 届出により選択をしなかった場合は、最終仕入原価法が適用されます
- 手続根拠は所得税法施行令第100条
つまり、何も届け出ていなければ最終仕入原価法になります。最終仕入原価法は、その年の最後に仕入れた時の単価で在庫を評価する方法です。同じ商品を複数回仕入れているせどりでは、「どの回の仕入れ値を使うか」で迷わずに済むという意味で、実務上は扱いやすい方法だといえます。
届出をしていない場合に自動的に最終仕入原価法が適用されるということは、多くの個人事業者はこの方法で計算していることになります。「自分は届出をしただろうか」と迷った場合は、開業時に提出した書類を確認してください。開業時に出す書類についてはせどりの開業届の書き方で扱っています。
数えるときにつまずきやすいところ
仕入れ以外の費用をどこまで含めるか
商品の仕入れ代金以外に、送料や手数料がかかることがあります。これらを在庫の金額に含めるかどうかは扱いが分かれる部分です。自分で決めつけず、税務署または税理士に確認してください。在庫に含めない費用が必要経費としてどう扱われるかはせどりの経費になるもの・ならないもので扱っています。
自分で使ってしまった商品
No.1350 事業所得の課税のしくみでは、事業所得の総収入金額に含まれるものとして「商品を自家用に消費した場合や贈与した場合のその商品の価額」が挙げられています。仕入れた商品を自分で使った場合、単に在庫が減るだけでは済まない可能性があるということです。数量が合わない原因になりやすいので、自家消費した分は分けて記録しておいてください。
売れ残りを翌年に持ち越すかどうか
長期間売れていない在庫を抱え続けるか、値下げや処分に踏み切るかは、税務の話とは別に事業判断が必要です。判断の基準はせどりの損切りの判断基準で整理しています。棚卸の作業は、この判断を見直すきっかけとしても使えます。
棚卸をラクにするための準備
年末に一気にやろうとすると時間がかかります。負担を減らすには、日々の記録の段階で次の状態を作っておくのが近道です。年末に仕入れを増やす前に確認しておきたいことは年末商戦の仕入れ判断で整理しています。
- 仕入れた商品と仕入れ値が、あとから商品単位で追えること。記録の付け方はせどりの利益計算のやり方で扱っています
- 売れた商品と売れていない商品が区別できること
- 保管場所ごとに在庫の一覧が出せること。日々どこに何があるかを把握しておく方法はせどりの在庫管理のやり方で扱っています
この状態を手作業で維持するのが難しくなってきたら、記録の手段を見直すタイミングです。手書き・表計算ソフト・会計ソフトの違いと選び方はせどりの会計ソフトの選び方で整理しています。
AIは、棚卸のための下ごしらえに使えます。仕入れの記録と販売の記録を渡して、売れていない商品だけを抜き出させる、保管場所ごとに並べ替える、数量が合わない商品を探させる、といった作業です。実際の渡し方はせどりの仕入れ記録をAIで振り返る方法で扱っています。一方で、在庫の金額をいくらとして計上するか、どの費用を在庫に含めるかといった税務上の判断をAIに決めさせるのは避けてください。最終確認は税務署または税理士で行ってください。
よくある質問
Q. 売れ残った在庫の仕入れ代金は、その年の経費にならないのですか?
国税庁のタックスアンサーでは、必要経費に算入できる金額は「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」などとされています。売上に対応していない在庫分は、その年の必要経費には入らないという構造です。翌年以降に売れた時点で、その年の売上に対応することになります。個別の計算方法で迷う場合は税務署か税理士に確認してください。
Q. FBAに預けている在庫も数えるのですか?
手元になくても自分の商品として残っている在庫です。倉庫にある在庫を数え忘れると、実際より在庫が少ない状態で計算することになります。販売先の管理画面から在庫の一覧を出せる場合は、年末時点のものを保存しておくと確認しやすくなります。
Q. 評価方法の届出をしていません。何か問題がありますか?
国税庁のA1-17によると、届出により選択をしなかった場合は最終仕入原価法が適用されるとされています。届出をしていないこと自体で計算ができなくなるわけではありません。別の方法を使いたい場合は、対象者となった日の属する年分の確定申告期限までに届出書を提出することとされています。
Q. 同じ商品を違う値段で何度も仕入れています。どの値段を使いますか?
届出をしていない場合に適用される最終仕入原価法は、その年の最後に仕入れた時の単価で評価する方法です。複数回仕入れている商品でも、使う単価が決まるため計算しやすくなります。具体的な計算で迷う場合は税務署か税理士に確認してください。
Q. 棚卸表に決まった書式はありますか?
本記事では特定の様式を指定していません。商品名・数量・単価・金額・保管場所が分かる形で、あとから確認できるように残しておくことが基本です。書式や保存方法について正確に確認したい場合は、税務署の相談窓口か税理士に確認してください。
本記事に記載した必要経費の考え方・事業所得の計算方法・棚卸資産の評価方法の届出手続の内容は、本記事作成時点(2026年8月)に国税庁の公式ページで確認した内容です(No.2210は令和7年4月1日現在法令等)。税制は改正されることがあり、また個別の取引をどう扱うかは状況によって変わります。実際の申告にあたっては、必ず国税庁の最新情報を確認するか、税務署の相談窓口または税理士に確認してください。
棚卸は、年末に在庫を数えて金額を出す作業です。必要経費になるのは売上に対応する分であり、売れ残った在庫の仕入れ代金はその年の経費に入らないため、売れた分と残った分を分ける必要があります。せどりでは自宅の在庫だけでなく、倉庫に預けている在庫や返品で戻ってきた商品も対象になります。評価方法は届出をしなければ最終仕入原価法が適用されます。年末に一気にやると時間がかかるので、日々の記録の段階で商品ごとに仕入れ値が追える状態を作っておくのが、いちばん効く準備です。


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